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更新日 2021-10-15 | 作成日 2021-10-15

マッハ 競技専用ステアリング考察

マッハ 競技専用ステアリングについて


1963年に日本グランプリが初開催されるなど、日本のモータースポーツ熱が高まる頃に本格的な国産スポーツステアリングのマッハ(mach)は産声を上げました。
ここでは、競技専用品…所謂レース用パーツとして開発されたmachステアリングにスポットを当ててみたいと思います。
マッハステアリングは1965年前後より製造・販売が始まりました。
乗用車用にはホンダスポーツ用が先ず開発されたようです。
S600の初期モデルの純正ウッドステアリングのリベット止めされたスチール製ボス部品が容易にM6ボルト4本止めに流用しやすかったからだと思われます。
その後、このステアリングの固定方法(PCD54mm、M6ボルト4本止め)は後の乗用車用のmachステアリングに共通のアイデンティティとなりました。(後発のチェックマンステアリング等も同様)

プリンス自動車は1965年にブラバムのシャシーをベースにR380(アルミボディの通称R380-Ⅰ型)を開発しました。
後に1966年に富士スピードウェイで開催された第3回日本グランプリ用に量産された通称R380A-Ⅰ型も当時の写真等を見る限り、同じステアリングが使用されていたようです。

1990年代に桜井眞一郎氏がR380A-Ⅰ型を当時の図面から復刻した際にステアリングも記念に復刻製作されたので、この仕様のステアリング(外径約350mm・グリップ径約24mm)が両タイプ共通であったと思われます。

当時の写真からは刻印等が確認できないので、メーカーは不明ですが、おそらくマッハ製ではないかと推測されます。
またステアリングの固定方法は(R38#シリーズ全て共通している)PCD57mmの変則3箇所のM6ボルト止めです。
この固定方法はおそらくR38#シリーズ専用だと思われます。

1965年 R380-1

1966年 R380A-1

R380A-1 復刻車用 S&S製


2018年6月現在、日産に動態保存されているR380A-Ⅰ型にはステアリング上部をカットしたマッハ製のステアリング(外径約330mm・グリップ径約27mm)が装着されています。
3本スポークの角度や華奢なデザインは独特の物ですし、元々丸いステアリングの上部をカットしたのではなく、最初からあのようなデザインで製作されたようです。
それはカット部の形状が急に内側に曲がっているデザインなのですが、アルミのベース部には曲げられた際に生じるような皺や亀裂が皆無であるからです。
何の為にこのようなステアリングが製作されたのかは謎ですが、量産されたR380A-Ⅰ型はタコメーターがステアリング奥に設置されていて見にくいので、テスト用或いは谷田部等のステアリングを切る動作を伴わないコースを走行する際に使用されたのかもしれません。

このカットタイプのステアリングですが、1968年頃に開発されたR382の製作中車輌に装着されています。
実走行には使われなくなったので、転がし用等に転用されたのでしょうか…?

R380A-1 カットタイプステアリング(1980年代の撮影)

R380A-1 カットステアリング

R380A-1 カットステアリング

R380A-1 カットステアリング

開発中のR382 1969年頃

カットタイプのステアリング


第3回日本グランプリ後、改良されたR380A-Ⅱ型はタコメーターがインパネ中央に設置されていますので、外径約330mm・グリップ径約27mmの小径タイプに変更されたようです。
あくまでも推測ですが、当時の写真から計算すると、この外径約330mm・グリップ径約27mmというサイズは以後登場するR381、R382、R383にも採用された共通のサイズであると思われます。

R380A-Ⅲ型に関しては、当時の資料が乏しくどのようなステアリングが装着されていたのかはわかりません。
1970年頃に日産から大阪のハヤシレーシングに転職したメカニック氏がR380用に10本作ったステアリングの1本ということで持参し、その後ハヤシ705というレーシングカーに装着された実物その物をお借りして撮影しました。
現在のオーナー氏により、取り付け穴が皿ボルト仕様に加工され、ホンダスポーツ用のステアリングエンブレム固定用の凹み穴が2箇所開けられています。
これと同じステアリングがR382に取り付けされているので、取り付けピッチが同じステアリングはR38#シリーズで使いまわしていたのかもしれません。

1967年 R380A-ll

1967年 R380A-ll (1980年頃の撮影)

1968〜1969年頃?

1969年 R382

1969年 R382

R381に関しても当時の写真が少なく、詳細は不明ですが、基本的にはR380A-Ⅱ型と同じタイプのステアリングだったと考えられます。
現在、日産に動態保存されているR381には少しスポーク幅の広いレプリカ(mach刻印無し)と思われる物が装着されています。
1968年 日本グランプリにR381で優勝した北野選手のゴール後の写真にスポークが黒く塗られたステアリングが僅かに写っています。

また、1969年日本グランプリ時の北野号には少しスポークデザインの異なるステアリングが装着されています。

1968年日本グランプリ R381

拡大したステアリング

1969年 日本グランプリ R382 北野号

ここまでご紹介したステアリング達はその独特の固定方法により、プリンス或いは日産がメーカーに特注製作を依頼したものと考えられます。
それは他のメーカーのレーシングカー等に同じ固定方法のステアリングを見ることができないからです。
しかし、競技専用のmachの小径タイプのステアリングもアフターマーケットで市販されていたようで、1970年のR383には乗用車用のM6ボルト4本止め用の取り付け穴も開いています。

1969年頃にフェアレディZ(S30)のレース用純正オプションとして採用されたmachステアリングですが、この外径380mmタイプはホーンボタンが装着可能でした。
その為、ステアリング固定用の穴とは別に5mm程度の穴が4箇所開いていますし、センターの貫通穴も直径が約35mm仕様になっています。

ここで言う競技専用machステアリングはセンターの貫通穴はR380から一貫して直径が約32mm仕様になっていますし、ホーンボタンを取り付ける為の穴は開いていません。
日産所有のチェリーX1-Rのレース車輌には競技専用machステアリングが装着されていますが、R38#シリーズ用の固定穴も開いているところが面白い点です。
このステアリングはアメリカ日産で永く保管されていて里帰りしたR382(北野号)にも付いていましたが、おそらくレース用ではなく転がし用だったと思われます。

1970年 R383

1970年代のチェリーX1-R

1969年 R382 (レストア後)



他の日産ワークスの箱のレーシングマシン達にはホーンボタン付きのmachステアリングが(ホーンは鳴らないと思われますが)装着されています。

他のメーカーではホンダスポーツ専用に製作されたセンターの貫通穴の直径が約30mmの外径約345mmのmachステアリングがあります。
元々、ホンダスポーツはホーンボタン(レバー式)がインパネに付いており、ステアリングセンターには純正エンブレムが装着できるようになっていますので、machステアリングにもエンブレム位置決め用の4mmの穴が左右2箇所に開いています。
現在茂木のコレクションホールに展示されているRSCのS800レーサーに装着されていますが、当時のRSCのパーツリストにも掲載されていたようです。
ダイハツ工業が1960年代に製作したP-5というプロトタイプレーシングカーに装着された machステアリングがありますが、ホーンボタンの代わりに2本のネジで固定する化粧プレートが装着されています。
このプレートの固定用ネジピッチから推測しますと上記ホンダスポーツ用のエンブレム固定用の穴にタップを立てる等の方法でネジ留めしているように見えます。

1970年代 サニーエクセレント

ホンダスポーツ専用mach (レプリカ)

1968年頃 ダイハツ P-5